※この記事は、新規事業の事業コンセプトづくりのフレームワークのステップ1の補足説明に該当します。フレームワークを読まれていない方は、先にフレームワークをご参照ください。
「既存事業の強みを新規事業に活かせるように深く考え整理する(前編)」の続きです。前編で書いた方法を使ってしっかり検討できたなら、自社が既存事業で培った強みをたくさん列挙した状態になっていると思います。新規事業チームのメンバーが10人いたとしたら、一人30個ずつ出して持ち寄れば、300個強みが集まったことになります。重複する内容を除外しても100個以上自社の既存事業の強みを出せたはずです。その強みは、製品の品質面の強み、生産技術の強み、品質管理の強み、物流の強み、販売ルートの強み、営業ノウハウなど様々あるでしょう。社長さんや社員さんの人脈、社風や会社の仕組み、会社のブランド、顧客からの信頼のような強みもあるでしょう。
この強みを活用して新規事業の事業コンセプトを考えるため、もうひと手間の作業をします。以下そのやり方を述べます。
顧客価値の視点を整理する
メンバーが出してくれた自社の強みは、「お客さんにとっての価値表現」と、「その価値を作り出す技術やノウハウなどの手段系要素」が混在していることがほとんどです。これを整理する作業が視点抽出です。
例として、ある精密金属加工製造業を考えてみます。チームのメンバーが出した強みに以下のような①~⑧の8つがあったとします。
①短納期対応が強みである、②最新設備を導入している、③優れた納期管理システムを持っている、④多能工が育成できている、⑤湾岸に広い工場を持っていて深夜も製造できる、⑥広い倉庫スペースがある、⑦資金力がある、⑧沢山の信頼できる外注先がある
①の「短納期対応が強みである」は確かに強みを表現していますが、お客さんの側からいえば「短納期で対応してもらえる」というお客さんにとっての価値表現とも言えます。そこで、短納期対応という顧客価値で括ると、②~⑧は「その価値を作り出す技術やノウハウなどの手段系要素の関係になっています。
図にすると以下のとおりです。

例えば、最新設備は段取り替えの自動化、高速生産、無人運転などが特長であれば短納期に貢献します。優れた納期管理システムはもちろん短納期対応力を高めます。多能工が沢山いれば人の配置換えが可能で工程ボトルネックを改善し短納期にできるでしょう。海辺の広い工場立地が幸いし、騒音を気にせず夜間に生産対応して納期を守れるかもしれません。広い倉庫スペースがあれば見込みで仕掛品を持つことで納期短縮できます。資金力があれば、材料をあらかじめ買って材料在庫を沢山持てるので納期短縮できます。豊富な外注先があれば、自社のキャパ超過時に外注を使って納期を守れます
上記のように、「お客さんへの提供価値のカテゴリー」を頭に出して、「その価値を作り出す手段系要素」を主従関係で整理していくのが視点抽出です。
「お客さんへの提供価値のカテゴリー」(=視点)を見つけることはそれほど難しくありません。自社のことだし、悩みながら強みを考えたメンバーの頭は活性化されているのでわりと簡単に整理できるものだからです。ポストイットに強みを書いたものを、いくつかの視点でカテゴライズして上記のような層構造をつくることはすぐできると思います。
さて、精密金属加工業なら、お客様への提供価値のカテゴリー(=視点)は他にもあるでしょう。例えば「高い加工精度」、「難加工材含め幅広い金属に加工」、「小ロットから大ロットまで対応可能」、「適切なスペック提案できる」等々お客さんへの提供価値のカテゴリー(=視点)が出てくるかもしれません。それらについて同様に上記のような図を作ってください。
短納期対応を支える強みとして、「最新設備を導入している」、「豊富な外注先」がありましたが、「高い加工精度」にもそれらは役立っているかもしれません。その場合は、「高い加工精度」を実現する要素として再び登場すると思います。
このようにお客さんへの提供価値(=視点)ごとに、強みとの関係を整理していきます。私は、抽出した自社の強みを縦軸に、お客さんへの提供価値を横軸にして、どの強みが、それぞれの提供価値に寄与しているかをエクセルの一覧表にまとめています。
製品に関係づけにくい強み
上記のように製品のQCDに関連する強みは顧客提供価値を頭に出して整理しやすいのですが、製品のQCDに直接関係しない強みも沢山出ていると思います。
例えば、会社の社風、組織等に関する強みです。具体的には、業界で知名度がある、長い歴史があって顧客から信用されている、社長さんが広い人脈を持っている、お客様の要求達成のために一致協力できる社風、チャレンジを恐れない社風、設備投資に前向きな考え方、社員教育に前向きで熱心である社風などです。
あるいは、営業力や販売ルートに関する強みです。例えば、顧客と長い付き合いがあり信頼を得ている、営業マンに豊富な商品知識がある、営業部長が広い人脈を持っているなどです。
知名度、長い歴史などは顧客に安心感という情緒的価値を与えていると考えられます。お客様の要求達成に柔軟に対応できる社風、営業マンの商品知識なども便利な相談先という価値を顧客に与えているかもしれません。しかし、顧客提供価値をすぐに表現しづらい場合もあると思います。その場合でも、仮説検証や販売企画のステップで提供価値に気づくことが良くあります。すぐに思いつかない場合は寝かせておきましょう。
既存事業の事業コンセプトの3要素を得意先ごとに書いてみる
以上解説した視点抽出という作業で様々な「お客様への提供価値のカテゴリー」(=視点)を抽出し、それを可能にしている強みの関係が整理できます。それが終わると既存事業の事業コンセプト3要素を具体的な得意先ごとに考える準備が整ったことになります。
既存事業の事業コンセプト3要素
①どんなニーズ、困りごとを持ったお客様に (解決課題)
②そのお客さんにとって良いこと、喜ぶことを(顧客提供価値)
③自社のどんな強みを活かして提供するのか (差別化)
再び精密金属加工業の会社を例にして説明します。この会社の取引先は数個単位の小ロット・短納期、かつ、毎日何回もジャストインタイムで納入して欲しいというニーズを持っています。当社は優れた納期管理システム、多能工が育成できていること、なによりも取引先に近い場所に立地しているという強みがあるので要求を満たすことができています。また、その取引先は開発段階からの提案ができる企業を求めているとします。当社は、長年培った経験と技術で、要求される製品を現実に安価に加工するにはどんな仕様が必要かを提案できる提案力が強みです。例えば以下のように書けます。
| どんなニーズ、困りごとを持ったお客様に (解決課題) | ①ニーズ) 顧客企業自体もセットメーカーからジャストインタイムを求められており、サプライヤーにもそれを期待するニーズがある ②困りごと) 加工が実際にできない図面を設計してしまうことで設計の手戻りが発生し問題になっていた (工数遅れの発生、コストアップ) |
| そのお客さんにとって良いこと、喜ぶことを (顧客提供価値) | ①数個単位の小ロット・短納期・ジャストインタイムで納入できる ②顧客企業の開発リードタイム削減やコスト削減ができる |
| 自社のどんな強みを活かして提供するのか (差別化) | ①小ロット・短納期・毎日のJIT納入に対応できる高い能力 (優れた納期管理システムを持っている強み、多能工が育成できている強み、取引先企業に近い場所に立地している強み) ②開発リードタイム削減とコストダウンを図りうる仕様提案力 (豊富な経験に基づく加工方法や仕様の引き出しの多さという強み、顧客の開発担当者にわかりやすく提案ができる図面解釈力とプレゼン力の強み) |
この作業を行うことで既存事業の強み→顧客提供価値→解決課題の繋がりをしっかりと理解することができます。まずは、このように既存事業における認識の積み重ねを行うことが大事です。そうすることで、新規事業の「顧客にとって良いこと、顧客が喜ぶこと(=顧客価値)」を強み起点で考える際の材料になります。そして、新規事業の「ニーズや困りごと」を想定し、新規事業の事業コンセプトを仮説していきます。
※本記事は「既存事業の強みを新規事業に活かせるように深く考え整理する(前編)」の後編です。また、本記事は、事業コンセプトをつくるフレームワークの中の、ステップ1に該当します。全体のフレームワーク の概要を先に参照下さい。

